1930年8月、エドワード・バッチは、あいかわらず、小さな港町に集まってくる沢山の人々の様々なタイプ(性格型)を研究するのに大部分の時間を使っていました。そして、新しいフラワーレメディを見つけようと、朝から晩までクローマー周辺の野原や小道を杖を片手に散策しました。


森林


バッチは、ノーフォークの沼地や川岸から、海岸沿いにさらに北に向かったたブラケニーと塩水沼沢地までの、何十キロ四方にもわたる地域とその植相を調査しました。そして、このような散策のなかで、新しいレメディに必要な薬効成分を含む7つの花を発見します。一つだけ例外はありましたが、どれもクローマーの道ばたや野原に自生しているもので、イングランドの全域に渡って共通に認められるごく一般的な野草の花でした。


バッチが薬効成分を試した最初の花は、アグリモニー(西洋きんみずひき)です。この植物は、イギリスの田舎であれば道端や野原などどこにでもあふれているので、人々はその美しさを気にもとめずに通り過ぎてしまうことでしょう。その小さな花は金色で、同じ色の雄蕊(おしべ)が沢山ついています。花弁がしおれて落ち、種子が熟してくると、細い茎はかぎ状の微毛に覆われたた鈴形の実でいっぱいになります。これらが人の衣類や動物の毛にくっついてあちこちに運ばれていくのです。バッチは、この植物の花が心労の薬になることを発見しました。心労とは、明るい外見の背後に隠れていることの多い、落ち着きのない、苛まれた心の状態です。

アグリモニーの花
01 Agrimony


次に彼が見つけて実験したのは、チコリー(キクニガナ)の鮮やかな青い花で、他人のことを心配しすぎる人の薬になることがわかりました。それは、他人の世話で翻弄される傾向のある人にとても必要な、真の静けさと落ち着きを与えてくれるものです。

チコリーの花
Chicory


チコリーを見つけた2、3日後、今度は、車道沿いの古い石垣の下から顔をのぞかせている小さなバーべイン(くまつづら)の花を見つけました。高さが30センチほどのこの小さな植物は、気づかずに通り過ぎてしまうほど目立たない存在です。沢山に枝分かれする細い茎は淡い藤色で、とても小さなものです。この花は、熱中し過ぎて全身が張り詰めてしまう人の薬になることがわかりました。

バーべインの花
Vervain


アグリモニー、チコリー、バーべインという3つの花を見つけたバッチは、その年の前半に開発していた方法でフラワーレメディを作りました。同じ年、雲一つない晴天の日を選び、町の近辺にたくさん自生しているクレマチスの小さな花の一つ一つを、花のすぐ下のところで摘み、ガラス製のボールに満たした水にいっぱいに浮かべ、四時間ほど太陽に当てて、エッセンスを抽出しました。ツタのように生い茂る植物の花には、花弁が一つもありません。花は雄蕊(おしべ)の群れとそれを囲む四枚から八枚ほどのの萼片(がくへん)で成っています。色は薄いクリーム色がかった緑色です。クレマチスは生垣を伝うようにして生い茂り、夏場に花を一面に咲かせます。クレマチスの花は、無関心でぼんやりした性格の人に効く薬で、バッチは、失神や昏睡状態に陥った人にもこの花が大変な効き目をあらわすことを発見しました。この場合、歯茎、耳の後ろ、手首、手のひらも優しくマッサージすると意識の回復がいっそう速まります。1928年にクレマチスの種子から製造した薬を使ってみて、幻想に浸るボーっとしたタイプの患者にかなり効き目のあることはわかっていましたが、新鮮な花から作ったフラワーエッセンスを使うことによってその効き目はいっそう高まったため、古い薬はすべて捨ててしまいました。

クレマチスの花
09 Clematis


セラトー(るりまつもどき)は、これまで見つけてきた12種類の花の中で唯一、イギリス国内で自生しない植物で、栽培植物としても一般化されてはいませんでした。この植物は知恵の国チベットが原産地です。セラトーは灌木性(丈が低く、幹が発達しない性質)の植物で、開花期になると瑠璃色の花が一面を覆い、赤い茎や葉がほとんど見えなくなってしまいます。バッチはこの花を海辺のとある大きな屋敷の庭で見つけました。あまりの美しさに魅了されて、許可を得て花を少しばかり摘んでみました。セラトーは自己不信に陥っている患者によく効くことがわかりました。

セラトーの花
Cerato


バッチは、野生のセントーリーのピンク色の花からもエッセンスを製造しました。セントーリーは、昔から根が薬用に使われてきた植物ですが、花のもつ治癒力はまったく知られませんでした。セントーリーは軟弱な性格が目立つ人に効くことがわかりました。この薬は、心身に活力と強さをみなぎらせるのです。

セントーリーの花
Centaury


9月も終わりに近づき、日も短くなり、太陽の力も衰え始めていました。バッチはこれ以上の薬草を年内に発見するのは難しいだろうと考えましたが、ある日、収穫後の麦畑で丈夫なスクレランサスの茂っている一画を見つけました。小さな鞘(さや)に包まれた緑色の花をつけるスクレランサスは、穀類の根の間に育ち、数センチの高さにまで伸びます。のちに、か細い茎に重くて大きすぎるように見える種子を形成します。スクレランサスは不決断とその心理状態から結果する身体的後遺症への薬になりました。バッチは次の晴天の日にこの小さな花からフラワーエッセンスを製造しました。スクレランサスはその年に彼が製造した最後の薬になり、バッチはその冬はクローマーに留まって、9つのフラワーレメディで患者の治療に当たる決意をしました。

スクレランサスの花
Scleranthus



Bach Flower Counsel
バッチフラワーカウンセル
英国バッチセンター